はじめに
こんにちは、もらとりあむちゃんです。
土日は友人から声を掛けられてふらふらとしたり、職域接種でワクチン状態になったりで一切記事を書かなかったことを反省しています。本当です。
それはさておき、前回は個別分析の記事を書きましたが7月2日決算のやつでは正直面白そうなものが無かったので、新シリーズ『ここで差がつく! 個別分析』をやっていこうと思います。(パクリみたいなタイトルだしこんな詐欺商材みたいなシリーズ名で良いんだろうか)
このコーナーでは個別企業よりもう少し業界横断的なトピックについてお話することになります。ブログ的に言うとカテゴリが変わるんだね。管理にも気を使います。
このシリーズの記事を読むと、
「やだ、この開示…スゴすぎ!?」
とか
「見えたぞ…次の決算の数字が!」
みたいになること間違いなしとまでは言わないですけど勉強になったなぁとか思ってくれたらいいなぁ…
では、やっていきましょー。
今日のトピック 月次でよく見る「既存店」の話
もらとりあむちゃんは出来るだけ開示を見てなんか面白そうなの無いかな、みたいなのをTwitterアカウント (@Mora_ToriumChan)で呟いておりますが、金曜は月初の金曜なのもあってかそこそこ以下の類の開示が多かったです。
「既存店既存店喧しいなこいつ…」と思った方、すみません
でもこの既存店ってとても奥が深い数字で、かつサプライズを起こしやすい数字なんです。
今回は
- そもそも既存店って何なのか
- 既存店がなぜ大事なのか
- 既存店が変動する仕組み
あたりを説明していければと思います。
そもそも既存店って?
「”既”に”在”る”店”舗」と書いて既存店ですが、もらとりあむちゃんが言っている「既存店」は「既存店の前年同月比」を指しています。
主に小売業や外食産業で開示されています。
9275 ナルミヤ 月次売上概況(2022年2月期6月度)
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120210702461616.pdf
9936 王将フード 2021年6月 月次売上高(速報版)
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120210702461447.pdf
みたいなやつです。
どれを既存店と言うのか、どういう計算をしているのかは企業によるのですが、大体1年位経過した店舗だけを対象に合計の売上を計算し、同じ店舗群の前年同月比の売上と比較する、というプロセスで計算されています。以下が模式図です。

ざっくりまとめれば、
- 去年もあった店舗だけ*で昨対比を計算しているのが既存店昨対比
- 1年以内に出来た店舗の売上も含めて計算しているのが全店昨対比
となります。
* 企業によっては14ヵ月経過後とかもあります。
既存店はなぜ大事?
ではなぜ大事か? という話に移ります。
「そりゃ売上を表してるんだから大事だろうし、伸びてる方が良いに決まってるじゃないか」
そりゃそうです。でももう少し構造として既存店が大事な理由を見ていきましょう。
既存店が何故大事か。
それは単純に店舗を増やして伸びる売上と違って利益にダイレクトに反映されるからです。
まず、月次が発表される企業に多い「店舗型の事業」について考えてみます。
売上は分かりやすいですよね。アパレルなら服を売った代金が、飲食店なら食事代が売上になります。
売上原価はそれに紐づくものです。服の仕入代や食品の仕入代などですね。
そして今回のトピックで重要な要素がその他の費用です。店舗型の事業では仕入代以外に何がかかるでしょうか。
それは働いている人の人件費や、店舗を構えている土地の地代家賃、店舗設備の減価償却費、水道光熱費などです。
そして、これらの数字は…売った分だけ必要になる原価と異なり、あまり変わらないものなのです!
これらを踏まえて、もし既存店の売上が伸びたら売上利益がどう動くのか?を表したものが以下です。

お分かりでしょうか。前年の営業利益率が約5%、粗利率が50%の場合、
たった1.5%の既存店の売上成長は16%もの利益成長になって返ってくるのです。
まぁ逆も然りで、仮に既存店がマイナスになったら悲惨なくらい利益が落ちるんですけど。
これはちなみに基準となる年の営業利益率と粗利率によって増減益の幅は変わります。
売上の伸び額 * 粗利率 + 前年の営業利益 = 今年の営業利益
位に考えて計算してみれば大体の数字を掴めるでしょう。
一方で、全店売上が伸びていても、新店舗というのはあまり利益に貢献はしないものです。
最初のお店の立ち上げには費用がかかり、認知度が上がるまではお客さんも十分でなくて売上が足りず、人の採用、教育、広告活動にも費用を使うからです。
なので、全店売上に対しての貢献が大きくても利益はあまり伸びていないことが多いんですね。
なんなら、新店の数次第では利益に対してはマイナス貢献になることすらあります。
まとめると、
- 既存店の増減は利益に対しての影響が大きいので既存店売上は大事
- 売上の伸び額 * 粗利率 + 前年の営業利益額 = 今年の営業利益額
- 一方で、新店による売上の伸びは全店成長に反映されるが、利益貢献は限定的
となります。
じゃあ既存店はどうして変動するの?
つらつらと書いてきたのですが、ここまでは正直ただの営業レバレッジのお話なんですよね。
「営業レバレッジ とは」とかで検索したら良いと思います。ハイ。
今日の豆知識パート、「じゃあ既存店はどうして変動するの?」ってとこに触れていこうと思います。
要素に分解して考える話
月次を見たことがある人は分かるかもしれませんが、企業によっては客単価と客数に分けてくれているところがあります。これが既存店売上の一般的な構成です。
既存店売上 (前年同月比) = 客数増加 (前年同月比) x 客単価増加 (前年同月比)
そんなん知ってる? よろしい、ではこっから更にもう一段の掘り下げをしていきます。
客数増加 = 既存顧客数 x 来店頻度向上 + 新規顧客獲得
客単価増加 = 一点単価上昇 x 1人当たり購入点数増加
ここまで分解するとあんま見ません。 (大丈夫かな、皆知ってて常識だから説明してないのをドヤ顔で書いてないかな)
こういった形になるのを頭に入れた上で、幾つかの既存店変動のパターンを見ていきましょう。
店舗のライフサイクルに則った伸び
店舗型の事業の多くは各要素から「この店はこれ位売上を見込めるなー」みたいなのを考えて出店しています。それは立地、周辺の競争環境、坪数 / 商品点数、商品の性質などが関わってきます。
ただ、出してすぐに想定通りの売上が出てくるわけでは勿論ありません。
前項でも触れましたが、店舗の売上は多くの場合いくつかのフェーズを経て数年かけてこの「これ位売上が上がったら良いな」という水準まで来ます。
出店当月はオープン景気と呼ばれることもあるのですが、少し売上が上がりやすいです。
新店舗は出したばかりで当然認知度が低ため人が来にくいことが通常なのですが、「おっ、なんか新しい店あるな、覗いてみよう」っていう人が集中して来るので、少し売上が上がりやすいのです。
ちなみに、この辺のオープン景気の動きがあるので、「既存店売上は初月を除いて14か月経過企業についてのみ計算」とかがあるわけです。
出店次月以降は出店当月と比べると落ち着いてきます。
「あまり好きじゃなかったな」って人の剥落と、「良かったけど一回行ったからもうしばらく良いかな」という人の剥落です。ただ、店舗がそこにあること、広告等の効果で認知度は上昇し、新しいお客さんが入ってきて徐々に伸びてくるのです。
ここは購買頻度に依りますが、1ヵ月やあるいは3ヵ月 (1回/季節) 経ってくると最初に来た層から良く来る人 (所謂常連)が安定し始め、認知度向上による新規顧客から常連が積み上がり、そしてまた一部は離れ…とお客さんが積みあがっていきます。
個人的な感覚では、2~3年位かけて商圏のお客さんにアプローチし終えた結果、想定通りの売上に辿りつくわけです。ざっくり模式図で表すと以下のような形の推移を描くわけです。

勿論この推移は企業次第です。中にはオープン景気時に一番売上が高いタイプもあるし、購買頻度が低い (購買感覚が長い) タイプや商圏 (アプローチできる範囲) が広いタイプもあります。この辺りは扱う商品の質が関係してきます。
もらとりあむちゃんは店舗系の事業の分析ではこういった既存店の動きを「ライフサイクル」と呼ぶことが多いです。企業取材の時にもライフサイクルと言って通じなかったことはあまりないので、それなりにそれっぽい言葉なのでしょう。(語彙力)
つまり簡単に言うと、若い店舗は基本的に理論値に向けて既存店売上が成長しやすいフェーズになります。そのため、「出店加速!」みたいな新店比率が高い企業では既存店売上が伸びやすい、等のパターンがあります。逆に察しの良い方は「その間は費用がかさんで利益にはならないのか」ってなると思いますが。
扱う商品の変化による伸び (商品ミックスの変化)
一旦ライフサイクルを終えた場合でも、扱う製品を変えて既存店売上が伸びる場合があります。
当項の初めに説明した分解をイメージしてください。
上の「ライフサイクルにおける既存店成長」が「新規顧客の増加による成長」だとするなら、この「扱う商品の変化による伸び」は「購買頻度」や「商品点数」「商品単価」にかかる成長になります。
具体例として有名なのはドラッグストアや良品計画、ドンキホーテ (パン・パシフィックインターナショナル) の「食品を扱うことにした」でしょうか。
食品は最も購買頻度が高い (購入サイクルが短い) 領域です。消費期限、あるいは消費サイクルが短いので度々人はお店に来るようになります。
その結果どうでしょうか?
皆さんはなんかお店行ったら買うつもりの無かったものを買ってることとかありませんか?
もらとりあむちゃんはあります。
そうです、これは「購買頻度を上げ」「一人当たり購入点数を上げる」ことで既存店成長に繋がるわけです。
ちなみに、反対側で「購入単価は落ちる」ことが多いです。ただ、総体としてはプラスの影響が出ていることが多いですね。
その他に意識したい既存店の動き
もらとりあむちゃんの把握する限り、構造的な変化は上の2パターンが多いです。
勿論、これ以外にも幾つか変動要因があります。継続性があり、意識したい動きから見ていきます。
値上げは分かりやすい動きでしょう。これは1点単価を引き上げることで客単価の引き上げ、既存店の上昇に寄与します。ただ、値上げ幅次第では既存顧客離れを起こしてしまうので、企業側に確認したいところです。
CMや広告も分かりやすい動きです。これは一気に新規顧客を増やしたり、「最近行ってなかったな~」っていう既存顧客にリマインダをかけ、購買頻度を引き上あげたりすることで、主に客数増加の面から既存店に寄与します。CM打ったら既存店伸びるから株買っとけ! はあながち間違いではありません。
改装による効果も見逃せません。外装が古い店舗などにはあまり足が向かないこともあるし、新しくなったと聞いたりチラシを見たりしたお客さんはオープン景気の時のように自然と足を運びます。結果、新規顧客の増加や、購買頻度の上昇を通して客数増加につながり、既存店が伸びる訳です。
割と継続性があって意識しやすいのは上の動きです。逆に、本質的では無い分注意したい効果もあります。
営業日数効果や曜日効果は馬鹿に出来ません。ハレの日向けの飲食店なんかでは、休日が1日増えるだけで売上が数%違うこともあるのです。あるいは、単純にうるう年の2月とうるう年でない2月では1日/28日 ≒ 3%強 も違ってきてしまうのです。
ただ、所詮曜日は曜日、ここの影響は年次第でプラスにもマイナスにも出てきます。曜日効果が大きい企業では月次開示に~%程の変動があります、と書いてくれていることも多いですね。
後は天候・気候です。雨の日が多ければ外で食べる軽食系はマイナスの影響が出たりします。また、夏にちゃんと暑いこと、冬にちゃんと寒いことはアパレル系にとって死活問題です。逆に、雨が降るとレインコートや長靴が売れるので、7564 ワークマン やホームセンターにポジティブな影響が出ることもあります。
この章のまとめ
では、この章をまとめていきましょう。
- 既存店成長は客数増加と客単価上昇から来る。また、客数増加は購買頻度と新規顧客に、客単価上昇は一点単価上昇と購入点数増加に分解できる。
- 店舗のライフサイクルを意識する。若い店舗は既存店が伸びやすいので、新店比率が高い程既存店にポジティブな影響が出る。
- 扱う製品の変化が購入頻度や購入点数増加に影響を与える
- その他、値上げやCM等広告、改装、営業日数や曜日効果、天候 / 気候などにも注意。
まとめ
結構駆け足での説明でしたが、如何だったでしょうか。
まとめると、
- 既存店成長率は単純な見た目の成長率異常に利益貢献が大きいので大事
- 伸びるパターンが幾つかあり、その構造や背景を理解することで差をつける
月次は毎月出る重要な開示ですが、その実態や構造をしっかり理解しておくことでただ「あー、伸びてるんだなー」以上に理解が深めることができます。
良い開示チェックライフを! (極めてニッチな層向け)
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